地主から借りている土地のことを借地といいます。この借地上にある建物の用途を変更する場合や、すでに建てられている建物が朽廃(古くなって住めなくなるくらい役に立たなくなること)した場合、どのような問題が発生するのでしょうか。
実際の裁判の判例も交えながらご紹介していきます。
借地上の建物の用途変更の条件
一概に「建物」といっても、その用途は様々あります。住宅や宿泊所、事務所、店舗、診療所、映画館など幅広く「建物」と呼ばれます。
建物を建てるときには用途を決めなければなりません。用途によって建物の基準が変わり、それをクリアしないと建物を建てることができません。
また、借地の場合は、その土地に建てられる建物の種類(堅固建物・非堅固建物)や構造、規模、用途などに制限が加えられている場合が大半です。契約しているからといって、好き勝手に建物を建てられるわけではないのです。仮に「居住用」に制限されている土地に、地主の許可なく「店舗」を建ててしまうと違反となり、地主は契約を解除することができます。
地主へ借地条件の変更を申請する場合、更地価格の10~15%の承諾料を地主へ支払うことで承諾を得るのが一般的です。ただ、何らかの事情で増改築をするために地主へ承諾してもらう場合、地主に法外な承諾料を請求されたり、そもそも承諾をしてもらえなかったりというケースもあります。そんなときに、裁判所が地主に代わって承諾する制度が設けられています。
実際の判例
上記の用途変更に関してのトラブルでおこった裁判の判例をご紹介します。
〇内容
借地上の給油施設を自転車販売店舗に変更したい
契約日が昭和38年10月15日で、存続期間は契約締結後30年、最終更新日が平成5年10月15日です。次回更新日は平成35年10月15日となっていますが、それより何年も前に借主から「借地上の給油施設を自転車販売店舗に変更したい」という申し出がありました。
借地条件の変更を申し出る場合、非堅固建物所有目的(木造など)の契約を堅固建物所有目的(コンクリート、鉄筋など)の契約に変更するのが一般的です。今回の場合は、元々がガソリンスタンドで堅固建物となっているので、先述のケースとは異なります。また、ガソリンスタンドは敷地全体を利用するという特徴があります。建築予定の建物は1階がピロティー構造で店舗床は2階、3階のみとなっていて、土地の最有効使用を実現するものではなく、戸建て住宅をビルに建て替える場合とは、収益性の向上が異なると判断されたことや、
増改築を申し出る際の承諾料の目安が、更地価格の3~5%となっていることから、更地価格の6%の承諾料が適正として2,210万円と判断されました。
借主は契約時に一時金として2,000万円を差し入れていて、その一時金で建築解体費用・賃料不払等は担保されているとされて、保証金の増額は必要ないと判断されました。
裁判所が出した結論は、将来の紛争予防の観点から、承諾料2,500万円採用することできまりました。
借地上の建物が朽廃した場合
地主から土地を借りるための借地権は3つに分けられます。
〇旧借地法
平成4年7月31日まで適用されていた借地法です。地主と借主との間で契約期間を定めていない場合は、非堅固建物なら30年、堅固建物なら60年という法定期間が定められていました。法定期間で契約されている場合、建物が朽廃すると自動的に借地権が消滅する制度になっていました。
期間を定めている場合は、朽廃しても借地権は消滅することがなく、朽廃によって地主から契約解除を求められることはありません。
朽廃ではなく滅失(地震による倒壊や火災、物理的な破壊)によって新しく建物を建てる場合は、堅固建物は30年、非堅固建物は20年の契約期間が新しく制定されます。
〇借地借家法
旧借地法に代わり、平成4年8月1日から施工された新法です。
借地借家法の中の「普通借地権」は、堅固・非堅固の建物区別がなくなり、法定期間が30年になりました。それより短い期間で契約をしても、強制的に30年で締結されます。期間を定める場合は30年以上で定めることができます。最初の更新後は20年、それ以降の更新は10年の契約期間となります。話し合いによって、それより長い期間で契約することも可能です。
旧借地法では朽廃によって借地権が消滅する制度になっていましたが、この新法では朽廃による借地権の消滅はなくなりました。滅失した場合は、地主の承諾を得てから建てることで再築が可能です。その場合は、「地主の承諾を受けた日」もしくは「建物を再築した日」のどちらか早い方から20年の期間が設けられます。地主の承諾なく再築をおこなった場合、地主が異議を申し立てれば解約することができます。
〇定期借地権
借地借家法の借地権の1つです。普通借地権は更新して土地を使い続けられますが、この定期借地権は更新がなく、契約期間が終わると地主に土地を返還しなければなりません。定期借地権には3タイプあり、一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権に分かれています。
●一般定期借地権
期間は50年以上で、期間が満了すると借地権が消滅します。借主は建物を取り壊し、更地にしてから返還する必要があります。長期間の契約になり、戸建ての場合はこの一般定期借地権が主に使われています。
●建物譲渡特約付借地権
期間は30年以上で、期間満了で地主が借主から建物を買い取ることによって借地権が消滅します。借主がアパートやマンションを経営し、期間満了で建物を地主に返還し、地主が継続して経営をおこなっていくケースがあります。
●事業用借地権
期間は10年以上、50年未満で、コンビニや工場などを建てる場合に利用されます。契約期間によって内容が異なります。
・10年以上30年未満→契約更新なし、地主への建物買取請求なし
・30年以上50年未満→契約更新あり、地主への建物買取請求あり(制約によってなし)
地主への建物買取請求がなしの場合は、更地にして地主に土地を返還する必要があります。
判例
実際の判例
建物の朽廃に関して、裁判での判例をご紹介します。
〇内容
借地上の建物が朽廃してしまい、新築特約違反の建物が残っている場合、借地権は消滅するのか
借主が地主から借りた土地に建てた建物が朽廃し、建て替えの申し入れをしました。契約時には「新築禁止特約」を締結していたので、地主の許可なく新しい建物を建てるのが禁止されていました。借主はその土地に新しい建物を3件建てていて、新築禁止特約があるにも関わらず、地主の承諾を受けないまま建築されたものでした。
今回適用されているのは旧借地法で、本来は建物が朽廃した場合には借地権が消滅します。ただ、古い建物は朽廃していても、新しい建物が3件あるため、建物の朽廃による借地権は消滅するのかというのが問題になりました。
新しい建物は地主の許可なく建てられたもので、借主が借地契約の目的で主張できる事情は認められないことや、古い建物の建て替え申し入れ直後に地主が訴訟を起こしていることから、古い建物の朽廃によって借地権は消滅したものという結論に至りました。
まとめ
今回は借地上の建物にまつわるお話をしてきました。
旧借地法、借地借家法が存在します。その土地はどちらの法が適用されるのかによって、建物の扱いや借地権の存続、消滅の内容が変わります。
ご自身の土地は一体どちらが適用されるのか、気になった方は一度相談してみてはいかがでしょうか。