不動産を購入しようと物件を探していると「擁壁」という言葉を目にすることがあるのではないでしょうか。「擁壁とは何のことだろう」と疑問に思ったことがある人も多いと思います。
ここでは、擁壁とはどのようなものか、その概要や種類、関わってくる法律などについてご紹介します。
擁壁とは
擁壁とは、崖崩れなどを防ぐために用いる壁状の建造物のことをさします。
隣の土地との間に大きな高低差がある場合、土や建物の重量に耐えられず、土地の側面が崩れてしまう危険性があります。そのようなケースでも側面が崩れてしまわないよう補強するための壁が、擁壁です。
擁壁と似た言葉に土留(どどめ)というものがあります。土留とは、擁壁の作る工事そのもののことをさします。つまり、土留によって作る建造物が擁壁であるということです。
また、一般的に土留というと、石や土を積み重ねた簡易的な崖崩れ予防策のことをさしますが、擁壁はコンクリートブロックなどを用いた、より本格的な崖崩れ予防のための建造物のことをさします。
擁壁の種類
擁壁には、いくつかの種類があります。
・RC造擁壁
コンクリートで作られた擁壁です。無筋コンクリート、鉄筋コンクリートという2種類に細分化されます。逆T型、L型、逆L型、重量式、もたれ式、片持梁式など形状がさまざまあり、土地の立地条件や斜面の性質に適した形状の擁壁が作られます。
・間知(けんち)ブロック擁壁
石垣などに用いられることが多い間知ブロックを使って作る擁壁です。間知ブロックは斜めに積み重ねることを前提に作られたブロックで、高さ5メートルまで積み重ねることができます(現行の法的基準に適合している必要があります)。主に、高低差が大きな土地に用いられます。
・大谷石擁壁
軽石凝灰岩である大谷石を用いて作る擁壁です。城郭の石垣などに用いられているなど、最も歴史の古い擁壁となります。強度はあまり強くなく、現在はあまり用いられることが多くありません。
擁壁に関連する法律「宅地造成等規制法」
擁壁のある不動産を購入しようと検討しているのであれば、擁壁に関連する法律である「宅地造成等規制法」について知っておく必要があります。
宅地造成等規制法は、崩落の恐れがある地域における災害防止のために1961年に定められた法律です。この法律が制定されたことにより、ある一定の条件を超えた擁壁については、設置前に都道府県による許可を得る(または施行完了後に検査を行い、検査済証を交付して貰う)ことが必要になりました。
宅地造成等規制法は、宅地造成工事規制区域内にある土地について適用されます。宅地造成工事規制区域内にある土地で、以下の条件に当てはまる工事(宅地造成工事)を行う場合は、宅地造成等規制法による規制を受けることになりますので覚えておきましょう。
・高さが2メートル以上の崖の切り土
・高さ1メートル以上の崖の盛り土
・切り土と盛り土を同時に行う場合、合計の高さが2メートル超
・切り土と盛り土を合わせた面積が500平方メートル以上
また、擁壁には技術基準が定められており、その技術基準に達していない擁壁は作ることができません。技術基準については国土交通省のホームページで確認できますので、事前にしっかりチェックしておくようにしましょう。
なお、土地が宅地造成工事規制区域の外にある場合は、建築基準法の規制対象になります。2メートル以上の擁壁を作る場合は、確認申請を行い、行政の担当者に設置した擁壁について確認(水抜け穴があるか、ひびや亀裂があるかなどチェック)して貰う必要があります。
古い擁壁については建て直さなくてはいけないことも
中古の物件を購入する際は、擁壁が何年前に建てられたものなのかチェックしましょう。1961年(宅地造成等規制法が制定された年)以前に作られた擁壁である場合、現行の法律の基準に適合していない擁壁になっている可能性があります。
また、古くなって劣化していることもあり、そういった場合には、現行の法律に則った建て直しをしなければなりません。建て直しの費用は高額で、数百万円〜数千万円かかることがあります。
土地と土地の境界に建てられる擁壁ですので、費用については隣家の住人と折半にすることも可能です。しかし、それぞれの土地で所有者が変わっている場合、それまでの費用負担などの経緯が分からなくなり、費用負担に関する協議が思うようにいかないこともありますので注意しましょう。
擁壁は建て直しが必要になることがあり、その場合は法律に基づいて設置しなければいけません。
購入を検討している住宅が擁壁つきの場合は、すぐに手を出さず、まずは擁壁が劣化していないか、現行の法律の基準に適しているかなど、細かく確認するようにしましょう。