借地非訴訟手続きと増改築禁止特約について

一度家を購入してしまうとなかなか新たに引っ越すということが難しくなってきてしまいます。家族が増えたり、子どもの成長に合わせて家を増築したり、より快適に生活し、老朽化に対応するため改築などをすることによって、引っ越しをしなくても対応できるケースがあります。借地の上に建っている場合はどうなるのでしょうか?見ていきましょう。

 

 

貸借人は自由に増改築をすることができるのか?

借地権設定の際の契約の中の“増改築禁止特約”があるかによって違ってきます。この特約が付いていなければ増改築が自由に行えると考えるのが一般的ですが“増改築禁止特約”が付くのが普通です。

 

増改築禁止特約は何?

増改築が自由に行われてしまうと法律上の借地期間が延長されたり、底地の価値に影響を与えてしまったりと土地の貸主にとっては不利益になる可能性があるため、制限を設けるための特約となっています。

 

 

増改築の基準は?

〇増築

既存の建物の床面積を増加させることを言います。

 

〇改築

建築物の全部もしくは一部を除去し、建て替えや間取りの変更を行うことです。

 

 

増改築するためには

増改築禁止特約が付いているからと言って、一切の増改築ができないという訳ではありません。

〇土地の所有者の許可を得る

増改築禁止特約の内容は「土地の賃借人が借地上の建物増改築を行う場合には、事前に土地所有者の承諾を得なければならない」というもので、土地所有者から許可を得さえすれば増改築を行うことができるでしょう。

 

〇借地非訴訟手続き

借地条件の変更で問題が生じたとき、紛争を予防し当事者の利害を調整して、裁判所が賃貸人の承諾に変わる許可を与える手続きのことです。貸主の承諾を得なくても裁判所の許可があれば建築を行うことができます。

 

借地非訴訟手続と増改築禁止特約及び無断増改築禁止の特約違反に基づく解除についての記事がありましたので紹介します。

 

借地非訴訟手続きは昭和41年の法改正から採用されました。

土地の賃貸人が増改築の承諾をしない場合、借地人は賃貸人にかわる裁判所の許可を求める代諾許可制度ができ、借地借家法17条2項にもこの代諾制度が引き継がれています。

 

では、借地人が土地の賃貸人に無断であり且つ裁判所の代諾許可を得ることなく増改築を行った場合はどうなるでしょうか

 

・契約の解除が容易に認められる説(鈴木・借地下735)

・契約の内容に何らの変化もしない説(星野・借地借家137等)

・解除権の行使がより一層に制限させる説(加藤・判時392・8)

 

判断が3つの学説に分かれています。

解除件に一層の制限がされるという判例は目にすることはありませんが、承認を得ず代諾制度を利用していない場合には「契約を解除できる」としたものや承認、代諾制度を利用し許可も得ずに建物の増改築を行っても信頼関係を破壊するとは言えないということから「変わらない」とした判例もあり、「信頼関係の破壊理論」に基づいて、その時々で判断が分かれています。

 

判例

〇契約の解除が認められなかったもの

・建物の同一性を損なわない場合、増築が新たな建物を築造したものと同一視されるものではないこと、建物の命数を不当に伸長し、建物の買取価格を不当に増大したものではない場合(東京高判昭和42・9・1839)

・賃借人側の相当な必要性に迫られてしたものであり、かつ、本件増改築部分自体仮設的な建物であって容易に除去できる場合(東京高判昭和52・2・24→半4)

・増改築工事が本来土地の通常予想し得る利用方法の範囲内であり、工事に着手するもその完成前に中止して、土地賃貸人の承認に変わる許可の裁判申し立て、適法手続きに依拠している場合(東京高判昭和57・1・285)

・その他(水戸地判昭和54・3・164判9)(福岡地判昭和59・7・4判19)(東京地判平成19・8・28-4判)など

〇契約の解除が認められたもの

・裁判上の和解で定めた無断増改築禁止の特約に反した場合(東京高判昭和47・9・20判6)

・借地人が増改築許可の裁判を経ないで建物増改築した場合(東京高判昭和59・4・26判時1118・186、大阪地判昭和51・3・29判)

・借地人が増改築許可申し立てを行ったが、許可がない状況下で、増築した場合(東京地判平成19年3・28判8)

 

 

増改築禁止特約と信頼関係の破壊

増改築禁止特約を破り「信頼関係の破壊」と判断される恐れがある修繕にはどのようものがあるかご存知ですか?事案を紹介いたします。

 

修繕

傷んだり、壊れて悪くなったりした部分を繕い直すこと。修理などを意味します。

 

〇事例

借主のBは土地の所有者Aとの間で平成3年5月30日に期間を20年と定めて、特約でAの事前の承諾を無くして建物の増新築・改築・大修理などを行った際は無断催告解除できると定め土地(以「本件土地」という)を借地する契約(以下「本件契約」という)をし、B

は本件土地上に建物を建てた(以下「本件建物」という)

 

平成21年8月頃にBは、Aの承諾を得ずに本件建物の2階部分の屋根及び1階の一部の合計面積約44.03㎡(屋根全体の面積は約112.49㎡)と本件建物の西側壁面に近接する北側壁面一部と南側壁面の一部を合わせて約19.146㎡を修繕した(以下「本件修繕」という)。

 

そこで、AはYに対し、平成21年8月28日付の書面で、本件借地契約を解除する旨の意思表示を行い、建物収去土地明け渡しを求めた訴えを提起した。

 

〇判断

裁判所は、以下のとおり判時して、AがBに無断で行った本件工事について信頼関係を破壊するものではないとして、解除を認めず、請求を棄却した。

 

本件工事は、いずれも本件建物の駆体の取替えに至らず、雨漏りの修繕等、通常の利用上、相当な範囲にとどまる。

借地契約の特約において、増新築、改築大修繕を行うときはAの許諾を必要とすると定めている趣旨は、増改築工事により本件建物の耐久年数が大幅に延長され、借地の継続期間に影響を及ぼすことを避ける点にあると解されるところ、認定事実によれば、本件においてBが行った本件工事は、本件建物の耐久年数を大幅に延長させ、借地権の存続期間に影響を及ぼす程度のものということはできない。

 

 

まとめ

以上のことから、借地の増改築が契約の解除につながるかは、賃借人に承認を求めたか、承認に変わる裁判所の許可を得たか、無断改築を行った経緯、改築の程度、原状回復の可能性、などを判断基準として、賃借人との信頼関係を破壊するほどのものかによって判断されます。

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